HMV蓄音機の魅力

アメリカのビクターとイギリスのHMV(正式にはグラモフォン社だが、HMVといくのが一般的)、 この2つがディスク型蓄音機を代表するブランドだ。
両社とも同じトレードマークを用い、ほとんど同じデザインの製品を発売していたこともあり、 また、共通する部品も多い(実際HMVはビクターからパーツを取り寄せていた時期もある)。
しかし出てくる音にははっきりとした違いがある。
今回は電気吹き込み時代のHMVの製品に焦点を当ててその特徴を述べてみたい。


 音の特徴

音の印象は主観的なものだということを承知でHMVの音にはある共通点があると 思っている。
それは音に躍動感と新鮮さがあるということだ。
出てくる音の凛とした感じはHMVならではのものだと思う。
あとは大型のなるに従って、音に余裕が生まれ、スケール感が増し、気品すら漂ってくる。


 豊富なラインナップ

「蓄音機が欲しいのだが、何を買ったらよいか?」
初めて蓄音機をもとめようとする方からたいていおきる質問である。
その場合私はHMVを薦めることにしている。
ポータブルから大型フロア・モデルまで製品がバランス良く並んでいるからである。
9種類もあれば好みの1台は見つかるものである。
あとは予算と部屋の都合できめてもらえば良いと思っている。 


 共通部品の多さ

「故障しても大丈夫だろうか?」
60年以上も昔の製品を使用しているのだから、当然そういう心配もおきてくる。
HMVの良いところは共通部品が多いことだ。
たとえば、ゼンマイ・モーターとブレーキ・セットは卓上モデルの#130から 中型フロア・モデルの#163まで同じだし、 その上の4機種は別なゼンマイ・モーターで共通だ(オイルバス・モーターを除く)
また、こまかなパーツ類やネジ類も同じものが多い。
さらに、一番の心臓部であるサウンドボックスは、仕上げの違いを別にすれば、 ポータブルから最上位機種まで基本的には同じ?5aと言うのがついている。 だから、故障したり、誤って壊してしまった場合でもなんとかなるのである。


 代表的製品

#102
ポータブル蓄音機の傑作。
マイナーチェンジが繰り替えされたが構造は同じ。
サウンド・ボックスも時期によって?5a、?5b、?16などがある。
一番音の良いポータブルだと思っている。



#130
卓上型の代表機種。
あまりスペースのない方にはこれで十分だと思う。
一回り小さい#104というのもあるが、ターンテーブルが25Cmなので、30Cmレコードを頻繁にかける人にはやはり#130を薦めたい。



#157
フロア型では一番小さいモデル。
内蔵されているホーンも上位機種とは違うタイプのものが納められている。
ストレートでスピード感あるサウンド。



#163
フロア型のスタンダード。
ここから上のモデルにリエントラントとよばれる2回折り曲げのホーンが納められている。 音もいいし、大きさも手頃だし、満足度大の一台。 その上の#193、#194になると価格も跳ね上がる。
最高級機の#202、#203はもっと高いが、これも生産台数の少なさ(200台?)による。 しかし、それだけのことはある。 余裕のある方はぜひ。今ない方は将来ぜひ。
以上、蓄音機を選ぶ参考になれば幸いである。


 蓄音機の針について

「蓄音機の音量を調節するにはどうするの?」
という質問を良く受ける。
蓄音機のドアを開閉してという方法もあるが、それでは音質に不満が出る。
では、どうするか。
針の種類と太さで変える。
蓄音機の針は大きく分けて鉄、竹、サボテンと3種類ある。
鉄針が最もポピュラーで、おおまかにラウド、ミディアム、ソフトの3種類に分けられ、 太いほうがラウドで当然大きな音が出る。
次に、竹針だが、鉄針に較べ音量が下がるだけでなく、音も柔らかくなる。 レコードへのダメージを考えて竹針を愛好する人は多い。
ただ、針がやや高価な上、一本で使える回数が少ないこと、それに竹針カッター(高価) が必要というのが難点。
それから、サボテンの棘から作られた針はソーン針と呼ばれ、音量も音質も鉄針と竹針の 間くらいと考えるとわかりやすい。
専用のシャープナーで研ぎながら使うが、一本で何十回も使えるので経済的だ。

いろいろ試してみて好みの針を見つけられたし。